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2012-05-12

愛を教えてくれた人

昨日、馴染みのおでん屋のお母さんのお通夜だった。
先生と二人、手を合わせることができて、今は心穏やかでいられてる。

別れを告げるのではなく、数々の思い出に感謝を込めて手を合わせた。
お母さんに逢えてよかった・・・そう思いながら、「ありがとう」を伝えたよ。

お母さんへ・・・

今頃、天に昇っている頃かな。
私の窓辺から観る空は青く晴れ渡っているけれど、お母さんにはお父さんしか見えていないかもしれないね。

あの世なんてね、あるわけないよね。
でもね、お母さんには、お父さんが待っていてくれる場所がちゃんとあるんだろうね。

先週(5月3日)に伺ったら、お店が休みなのでびっくりしちゃった。
店の戸口が開いていて、先生と覗いたら大将が出てきた。

ふとね、お母さんに何かあったのではないか?と心配になったよ。
だけどGWはいつもお休みだったね。

いつもなら醤油ダシの匂いのする時間、おでん鍋は空っぽだった。
そういえば長期休みに、おでん鍋をメンテナンスに出すと聞いたことあったっけ。
店先で夕食中だったお母さんの姿を見つけた時は胸を撫で下ろしたよ。

だけど、お母さんのおでこには絆創膏が貼られていて、左目の辺り一面真紫だった。

「お母さん、どうしたの?」

「つい、うっかりして転んじゃった」

「痛いでしょ・・・大丈夫、眼は見える?他に痛いところ無い?」

「まだあんたの顔が見えるから大丈夫だよ」

「休みが明けたら、またおいで…」

「うん、わかった。でも無理しないでね、たまにしかない長休みなんだから、ゆっくり休んでね」

元気になったお母さんに逢えるのを楽しみに、一昨日、先生と店に向かった。
いつもなら暖簾の出ている時間なのに、暖簾はいつもの定位置に仕舞われていた。

それでも店の中は電気が付いていた。
だけど、こんなことはたまにもあったね。

お姉さんが来るのが遅くなってしまった日は仕込みは済んでいても店は開けなくて、大将とお母さんがぶーぶー怒っていたこともあったし、他のお客様には申し訳ないけれど、そんな状況の時であっても私達は店の中に入れてもらい開店を待った。

引き戸に手を添えようとしたら、中からドアを引く手が見えた。
少し疲れた顔をした大将が「しばらく店は開けられない」と言ったので、お母さんの怪我が悪化してしまったのかと思ったよ、入院してしまったのかと思った。

大将にそう聞いたらね、小さく首を横に振って、しばらく黙ったままだった。
一息ついて大将が言った。

「6日に亡くなったんだよね」

大将の言葉が小さくて、私には良く聞き取れなかった。
ううん、聞こえてはきたんだけど、それがお母さんだということまで結び付かなかった。

「えっ、お母さんは今どこにいるの?」

「だからね、死んじゃったんだよ…」

寝ている間に死んじゃったんだってね…きっとお母さんも知らないでしょ。
変死扱いとされて解剖して調べたらしいんだけど、死因は肺炎だと言われたらしいよ。

熱もなく、咳もさほど苦しそうでなかったらしいけど、熱が出たらもっと早くに気が付いたのかな?
でもね、それも今だから言えることだよね。

どんなに悔やんでも目の前にある事実は変えられないんだよね。
それでも嘘だと思った。だって一週間前は元気だったのだからね。

でもね、遠くから私達が話す様子を観ていたお姉さんの顔を観てわかったよ。
いつもの大将の冗談ではなく、本当のことだと思わざるしかなかった。

何かがパチンと割れるような音がして、眼の奥が焼けるように熱くなった。
「お母さん、死んじゃったんだって…」と先生に言ったら、先生黙って俯いちゃた。

その後、何を聞いて、何を話して、お店を去ったのか?よく覚えていない。
先生と二人で近くの料理屋でお母さんを偲んで酒を飲んだのだけど、あんなに早口で一気に呑んだのに酔う気配はなかった。

「親しくさせてもらっていた人が亡くなったので…」
と酒を酌してくれた仲居さんに、先生が一言添えてくれた。

あまりに突然すぎて泣けるつもりはなかったんだけどね。
お母さんのこと好きだったけれど、涙が溢れて止らなくなる程、悲しくなるとは思っていなかった。

だけどね、先生の寂しそうな顔を見たら、お母さんの顔が浮かんできて涙が溢れて止らなくなってしまった。
近くにお客様がいるにも関わらず、先生は私が泣くのを許してくれてたよ。

先生とお母さんとの思い出を語ったよ。
語る思い出はどれも愛しいものばかり、だけどね、お母さん、私ね…、余計なこと言っちゃって、そればかり気にしてた。
最後に逢った時に「ゆっくり休んでね…」なんて二度も言わなければ良かったと思ったよ。

お母さん、いつも言ってたよね。
死ぬ時はおでん鍋の前で死にたいって・・・。

普段どおり眠りについたまま亡くなったと知らされたけど、あまりに潔すぎて何も言葉が浮かばなかった。
患うことなく、誰に迷惑をかけることなく、それはお母さんの本望だったかもしれないけれど、だけどね、突然の別れは寂しすぎる。
ううん、こんな日が来ることはわかっていたんだけど、でもね、できればもっと遠くに感じていたかった。

お母さんは、昔の話を良くしてくれたよね。
生まれた家のこと、戦争のこと、おでん屋に嫁いだこと…、お父さんとの思い出は誰よりも聞かせてもらったと思う。

お父さんの自慢話をする時は、少女のように輝いていた。
幾つになっても、一人の男性を思い続けることができるなんて幸せだろうなぁ~思っていたよ。

でもそう思わせるほど、素敵なお父さんだったんだろうね。
どんな著名人が訪れても、ひいきしたり自慢したりしないお母さんだったけれど、お父さんのことだけは特別だったよね。

時の流れと共に昔の話を共有できる人が少なくなったことを寂しいと思っていたんだろうね。
だけど、よりに寄って私みたいな粗末な女に、沢山の思い出を語ってくれて嬉しかったよ。

野球場にお父さんを迎えに行った帰り、二人で夜桜を観たこと。
お父さんがお巡りさんと喧嘩したこともあったっけ。

どんなにお父さんの帰りが遅くなっても、食事の用意をして待っていたんだよね。
私が驚いたら、そんなの当たり前のことだ!と怒られちゃったよね。

でもね、その後に言ったよね…。

「起きて待っていないと機嫌が悪くなるから…」って惚気ていたっけ。
「お父さんは、飲みに行っても絶対に外で食事をしてこない人だったから…」って。

一日の最後は、二人で食事をして終るのが日常だったんだね。
ううん、お母さんが帰りを待っていることを知ってくれていたお父さんだったから、待っていられたのかもしれないよね。

お父さんは『義』を通さない人は、客であってもそっぽ向いてしまうんだったよね。
でもね、お母さんもそっくりだったよ。

以前、店の前に花屋のトラックが止っていたことがあったでしょ。

「人様の店の間口を塞ぐような不届き者は許せない」と怒って、店の前に仁王立ちして業者が戻ってくるのを待っちゃうんだもん、私、お母さんが心配で一緒に立っちゃったよ。
私営の駐車場は、店の直ぐ前にあるのに、ホント失礼だよね。

お母さんに何かあったら大好きなおでんの煮玉子が食べられなくなるから、私が一言注意しようと思ったら、お母さん先に啖呵切っちゃうんだもん、あの時はハラハラしちゃった。

「人様の店の前に車を止めるなら、一言挨拶できなくてどうする!」

「この街で商売するなら常識を弁えろ」ってね。

若い男性二人は、ぽかんとしてたよね。
でもお母さんの気迫に負けて、素直に謝って帰っていったよね。

あの二人、堅気の商売人には見えなかったけれど、でも相手が誰でも関係ないと言ったね。
「お父さんがいたら、あんな人達は許さないよ」って言ってたけれど、私はそういうお母さんも負けていないと思ったよ。

他にも沢山の思い出話があるけれど、尽きることが無いからまたゆっくり書くね。

帰り道のメールで、先生が言ってくれたの・・・。

「可愛がってもらっていたお前は辛かっただろうな・・・」ってね…。

その言葉でまた泣いちゃったよ。電車の中で大泣きしちゃった。
思えばね、大酒飲んで酔っ払って何度も店に迷惑かけてきたのに、それでも最後は「またいらしてくださいね…」と丁寧に言ってくれていたよね。

先生、外に出ちゃって聞こえていないのにね…それでも欠かさず挨拶してくれた。
私には「またおいで…」といつもそう言って帰してくれたよね。

先生のことは「旦那さん」と呼んでいたよね。
道ならぬ仲だろうことは知っているはずなのに、それに他のお客様には使わない言葉を、どうして先生に使うのか?不思議に思っていたよ。
えへへ、偏屈者同士は気が合うのかな。。。

それからね…、昨日、お通夜に伺うことができて良かったと思ってるよ。
お母さんが亡くなったと聞いたときに、頭の中が空っぽになってしまって何も聞けないままだったから、葬儀がいつなのかもわからなかったし、それに近い身内でもない私たちが行って良いものなのか?わからなかった。

昨日、一日考えていたんだよ。
午後になってから、「今日あたりお通夜だろう…」と先生からメールが来てね、二人で静かにお通夜をしようと思っていたんだけど、お母さんのことを思い出したら逢いたくなっちゃった。

きっと先生も考えていたんだと思う。
それから先生に断りもなくお店に電話をして、葬儀がいつなのか?尋ねた時は、まだ行くつもりにはなっていなかった。
だけどね、もし今日であるのなら、お経があがる時間に、先生と二人でお母さんを偲びたいと思って確認した。

喪服ではないけれど、黒い服を着て先生が改札を出てくるのを待った。
それほど特別な意味はなかったけれど、色のある服が眼に入らなかったんだよね。

「お通夜に行くつもりか…」
「ううん、そうじゃないけれど…、先生に逢ってからどうしようか?聞こうと思ってたんだ…」

そういったらね…、先生、急ぎ足でタクシーを拾ってくれた。
通夜は18時からだったけど、先生が到着したのは、18時半を少し過ぎていたかな?

会議が長引けばもっと遅くなると思っていたけれど、「最初から行くつもりだったなら、もっと早く言え」と叱られちゃった。

でもね、葬儀場まで行く道でも、まだ戸惑いがあったんだよね。
もし?場違いな雰囲気であれば、そっと近くから手を合わせたいと思っていた。
それだけで十分だと思ったよ。

でもね、葬儀場が近づいてくると、お母さんの声が聞こえてきたような気がしたんだよね。

「なにぐずぐず考えてんの、あんたらしくもない…」

「来たいなら来ればいいでしょ…待ってるからおいで…」

もちろん私の思い込みであることはわかっているけれど、お母さんは私が破天荒で仕方のない娘だと思ってくれてたからね。

はぁ~またか?仕方ないなぁ~と諦めてくれるほど、何度も先生に怒られている姿を観てたもんね。
だけどね、私一人で店に行くと、すごく心配してくれたんだよね。

今日、旦那さんはどうしたって?ってね。

「後から来るよ」と言うと、安心してか?お母さん、大将、お姉さん、みんなしてふざけたことを言い出すんだもん、よっぽど私が先生に面倒をみてもらっていると思っていたのかな?

お焼香を済ませると、お母さんに逢えない悲しみよりも、楽しかったことばかりが思い出されたよ。
来て良かったと思った。同じ後悔するのなら、何もしないより行ったことに対して後悔したいと思えてよかった。

お母さん、今年の桜は、大将と観ることができてよかったね。
すぐ目の前に咲いていても、店があるから行ったことないと、ずっと言っていたもんね。

今年は梅の開花も遅れていたから、桜が咲いているとは思えなくて、「今日は梅を観てきた」と言ったら、「桜を観てきなさい!」とお尻を叩かれちゃったよね。

古くから馴染みのお母さんにも、大将と花見に行った話を嬉しそうにしてたね。
何度も何度も、今年の桜が観れて良かったと言っていたよね。

あの時、私…来年はみんなでお花見しようと突拍子もないこと言いだしたでしょ。

「たまにはお弁当を持って花見に行こうよ」
といったら、大将が「どうせ俺に作らせるんでしょ?」と言ってあっさりと断られちゃったけど、何度も嬉しそうに話すお母さんを観ていたら、来年の桜は観れないからね、と言われているような気がして寂しくなってきちゃったんだよ。
だからね、あんなこと言っちゃったけど、お父さんに似た年齢となった大将と一緒に眺めた桜に適うはずないよね。

お母さん、先生が言ったよ。
泣けるほど親しくしていただいたことを在り難いと思う…ってね。

うん、私もそう思う。だけどね、私は先生を泣かさないようにしなくちゃと思った。
でも・・・私はお母さんのようになれないかなぁ・・・。
今だって先生が居なくなると思うと、急に悲しくなって泣けてきちゃうんだもん。

この次、お店に行く時は、おでん鍋の前にお母さんの姿はないんだよね。
お母さんが居なくなった事を実感しなくちゃいけないんだろうなぁ~。

実はね、まだ信じられない気持ちでいるんだよ。
お母さんに会えるのは、いつもおでん屋さんでと決まっていたから、祭壇の下の棺の中にお母さんが入っているとは思えなかったもん。
なんとなく現実のような気がしなかった。

だから最初の一回だけは泣いちゃうと思う。
でもね、その後は泣かないでいようと思っているんだよ、約束は出来ないけどね。

お母さん、辛気臭い客を嫌うでしょ。
そういえば、「塩まいておくれ」と言われた客がいたっけね。

それに私が泣くと、他のお客さんが先生のことを疑うし、男に恥をかかせてはいけないと、お母さんいつも言っていたから、私もお母さんのように凛としていようと思ってるけど自信ないなぁ~。

でも先生が一緒だから大丈夫だと思ってるけどね。
なんだかよくわからないけれど、どんなことでも先生が傍に居れば大丈夫だと思ってしまう癖が出来てしまったみたいだよ。

これからの季節、おでん屋は静かな時期に入るけれど、毎年と変わらずお邪魔するからね。
今まではお母さんからお父さんの話を沢山聞かせてもらったけれど、これからは大将とお母さんの話をするよ。

大将はお母さんのことが大好きだから、客足の途切れる時間になると寂しい思いをするでしょ。
大将が寂しそうだとお母さんも悲しくなるだろうし、だからね、そんな時は、あれこれと我侭な注文を出して忙しくさせちゃおうと思ってる。
お姉さんには怒られちゃうだろうけど、お母さん、いいよね…。

それからね、熱いものは熱いうちに、冷たいものは温まる前に、ちゃんと食べるから安心してね。
お刺身のつまも残さないよ。それに鰯の頭も、ちゃんと先生の分まで食べるからね。

ナメタカレイの煮付を食べる時は、喧嘩をしないで仲良く分けて食べるから心配しないでね。
それから竹の子の剥き方、下手くそでごめんね。お手伝いするつもりが邪魔しちゃったよね。

あの日は、先生と喧嘩したまま迎えた週末だった。
お母さん、何も聞かなくてもわかっていたのかなぁ~?

ひょっこり顔を出したものの、開店前だったからなんとなく罰が悪くて早く帰ろうとしたら、大将が仕入れから帰ってきたらコーヒーをおとすから飲んで行きなさいと言って引き止めてくれたよね。

コーヒーを飲みながら、歌舞伎揚げを食べたね。
前日に煮ておいた竹の子の煮付けも、殆ど私が食べてしまったね。

朝から何も食べなかったから美味しかった。
私だけコーヒーのお代わりをもらってしまったけれど、まるで何日もご飯食べていない子みたいだったかな。

「この後どうするの?」と大将に聞かれた時、「用が済んだら早く帰りなさい」とお母さんにぴしゃりを言われちゃたよね。
それから煙草の煙をゆっくり吐き出すと、「次は二人でおいで…」と優しい顔で見送ってくれた。

お母さん、何にも言わなかったけれど、くだらない意地なんて張るもんじゃない!と怒られているような気がしたよ。
早く先生の元に帰りなさい・・・そう言ってくれていたんだよね。

お母さん、私のことを「あんた」「あんた」って親しみを込めて何度も呼んでくれてありがとうね。
私もね…、「おかあさん」っていっぱい呼べる人に出会えて本当に嬉しかったよ。
美月
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プロフィール

美月

Author:美月
今年の夏で49歳になります。
月日の経つのは早いもので、不倫愛歴七年目を迎えました。この出会いに感謝して、灰になるまで恋を…と願っています。

幼い頃から月に心惹かれ、今では月が心を映す鏡となっています。こんな月マニアの私の為に、愛する人が「美月」と名づけてくれました。いつまでも大切に使っていきたいと思います。

ようこそ…
「灰になるまで恋を…」にお越しくださいましてありがとうございます。当ブログは不倫愛・性に纏わる内容が含まれております。18才未満の方、不倫、性的内容を好ましく思われない方の入場は、ご遠慮願います
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